精神科学教室 医局員の声

きみあきの休み時間 3rd ひかげ

2016.01.19

 そのうちつまびらかになると思うが、僕は算数ができない。ナンプレだとかのパズルも苦手だ。数学なんか、受験生の時にとことんやってもできなかったから、あきらめはついている。ついてはいるのだが、それでも内心、悔しいし、数学が得意って言う人には、憧れ、尊敬、崇拝、信仰の念を抱いている。嫌いなわけではない。好きなのにフラれたんである。まあ、なんていうか、仕方ないさ、小学生の時に「鶴亀さん」や「植木さん」にフラれてるようじゃ、相当魅力がないんだよ、君には。

 日の光がまぶしくて、暑くて、鬱陶しいから、僕は日かげを歩いた。当然、動物も植物も、僕と同じ気持ちだろうと思っていた。植物は日なたよりも、日かげのほうがよく育つと思っていた。だって、日かげのほうが涼しくて快適じゃないか。こんなだから、理科は0点近い答案を連発していた。親に見せられない答案たちは束になって、教室の机の中にぎゅうぎゅうに押し込まれた。ついでに給食の残りのリンゴを入れていたのがいけなかった。何日かして、とてもいい匂いがしたのだろう。先生はゴミ箱と化した僕の机をひっくり返した。答案をきれいにのばして、(リンゴは捨てて、)ご丁寧にまとめてくれて、それは立派な冊子になった。表紙に“きみあきくんはこんなにたくさんの答案をかくしていました”と一筆、達筆にしたためた先生は「お母さんに見せるんだよ」と言った。

 ASD/LDなのかもしれぬ。

 それでも中学に上がる頃には、まあまあデキるようになってきて、地元の進学高校程度には合格できた。滑り出しは良かったんだけど、そのあとコケた。

 高校の物理の思い出を話してもいいかな。卒業試験のとき、比喩じゃなくて正真正銘、白紙提出のピンチだった。ふつう、試験のときは席が厳格に決められているはずだよね。でも僕が高校生の頃はそのへん、おおらかだったのかもしれない。とにかく僕は試験が始まる直前の休み時間に机ごと移動して、物理が得意な堀○くんの右隣に座った。無理やり前後の机を押しのけて割り込んだから、そこだけ三連符のような形になったんだけど、あたかも僕の席はここです、みたいな顔をして、それから試験が始まり、僕は彼の解答用紙の「右半分だけ」見せてもらった。こうして左半分は白紙で、右半分はパーフェクトな、阿修羅男爵みたいな解答ができあがった。僕が物理の先生だったら、呼び出すけどな。いったいこれはどうしたことだって。

 そんな男が、どうして医学部に入れたかって君は思うだろうね。カネをはって、じゃなかった、ヤマをはって、出そうな問題だけ研究して暗記していくんだよ。そしたら本当に偶然、100点取れる時ってあるんだよ。奇跡も、ときには起こる。

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