精神科学教室 活動報告

医療政策フォーラム「総合病院精神科の医療経済を考える」

2016.09.06

93日、都内で開催された日本総合病院精神医学会 医療政策委員会主催の第6回医療政策フォーラム「総合病院精神科の医療経済を考える」に出席した。半日のシンポジウムで、ラインナップは以下の通りであった。

 

演題1:「診療報酬に対する当学会からの要望と改正の経緯および今後の課題」小石川比良来先生(診療報酬委員会委員長、亀田総合病院心療内科・精神科)

演題2:「有床総合病院精神科における診療報酬上の課題」吉岡隆一郎先生(公立豊岡病院組合立豊岡病院精神科)

演題3:「無床総合病院精神科における診療報酬上の課題」桂川修一先生(東邦大学医療センター佐倉病院メンタルヘルスクリニック科)

演題4:「総合病院院長からみた総合病院精神科」新保卓郎先生(太田綜合病院附属太田西ノ内病院)

指定討論:「これからの精神科医療のあり方―総合病院精神科に期待すること―」臼杵理人先生(厚生労働省 障害保健福祉部精神障害・保健課)

 

演題1では、平成28年度の診療報酬改訂について、学会から行われた要求の背景と実際の内容について詳しい解説と分析が行われた。今回の改訂で精神科リエゾンチーム加算の増額、精神科急性期医師配置加算の新設、総合入院体制加算制度の見直しなど、総合病院精神科に対して大きな追い風となる革新的な内容が盛り込まれたが、これらは「リエゾン」をキーワードとして総合病院精神科の医療の変化を量的なものから質的なものへと変換させ、5疾病5事業時代にあって身体科と精神科の連携、他職種チームの役割を推進するものであることが説明された。特に、人口減少と財政難を背景として、他科との比較における精神科単科の利益ということではなく、精神科を機能させた場合に病院全体として利益がもたらされる構造になっているという視点は非常に説得力があり、総合病院における精神科の今後の方向性を強く示唆するものであると感じられた。

 

演題2では、有床総合病院精神科の、演題3では無床総合病院精神科での現状と問題点が実例を題材に提議されたが、前者では長期入院から短期入院型の病棟への変革に取り組む際の状況がリアルに紹介され、当科の病棟と比較対照しながら聞いていると非常に参考になった。当科は総合病院であると同時に大学病院でもあり、教育機能も含めて病棟運営を考えていく必要があるため、一概に同一視はできないが、ほぼ似たようなことが問題になってきているのは興味深い。最後に医師の確保が問題となっていることが強調されたが、これも共有できる話である。

 

演題4では、病院長の立場からの話題が提供された。かつて筆者が勤務したことがある地域の基幹病院であり、なじみがあったが、今や精神科常勤医が不在となり、様々な問題が浮上してきているという。精神科は放射線科や病理科などと同様、中央部門的な機能も求められていることがはっきりと示され、目から鱗が落ちる思いであった。

 

最後に、厚生労働省からの「公式解説」がなされ、今回の改訂はメッセージ性が強いものであり、リエゾンチームや自殺企図後の患者に対する継続的な関わりを推進・評価することや、総合病院が地域でのハブとして機能することが期待されていることなどが強調された。

 

本フォーラムに出席してみて、今回の改訂をもとにした場合、総合病院精神科をどのような方向性で運営することが期待されているのかをより明確に理解することができた。しかし、シンポジストの先生方が強調されていたように、どの病院でも問題になっているのは最終的には医師の確保であり、そのためには単に報酬に基づく経営上の問題だけでなく、教育体制や精神科医療の魅力・やりがい、といった要素も考慮していく必要があって、特に当科のような環境では、双方のバランスを考えていくことも重要であろうと思えた。

栃木衛

 

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